【感想】僕は君を殺せない(集英社オレンジ文庫)/長谷川夕

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表紙の消え入りそうな雰囲気と、ストレートなタイトルに惹かれて購入しました。こういう中二病的タイトルと、儚い系の、わかりやすいものに弱いものです。

 

手に入れたのがいつだったかは覚えておりません。気になった本はすぐに買い込んでしまい、新刊が新刊でなくなる事件は度々起こります。

 

でも、「あれ、これ買ってたんだっけ!」と宝物を見つけたような気分になれるので割と楽しいですよ。

さて、ネタバレはないと思いますが、責任は取りません。

 

 

 

 

 


物語は、”僕”と”おれ”、二人の視点で進んでゆきました。

 

”僕”はですます口調で話します。ポイント高いですね、グッときました。淡々とした話し方とその内容から、”僕”は、「余計な言葉を口にしない、冷静で物怖じしない人物」という印象を受けました。好きだ。落ち着いた好青年は好きだ。

 

ネガティブに言えば「物事に関心がない」。これはゆくゆく、「遂行すべき物事以外に関心がない人物」、にたどり着くかと思います。しかしそれも非常においしい。

好印象でした。”僕”は丁寧な言葉運びで、穏やかな性格と心境をこちらに伝えてきます。リズムよく、淡々と。声を荒げない青年は好物です。たまりません。

 

 

そして気が付けば、今しがた「好印象」と感じたすべてが、狂気に満ちてまいました。最高。闇深男子。

 

”おれ”は少々ガサツな言葉遣いの持ち主です。今時の若い子、という印象を受けました。そして、それ以上の感情輸入は特にありませんでした。

 

あらすじには、”僕”と”おれ”、接点のない二人の主人公が交錯するのだと思いましたが、”おれ”について、もっと深掘りしてあげればよかったのでしょうか?

どうしても主人公は”僕”の一人だけだったように思います。(”おれ”は私好みではなかったからかもしれません。)

 

 

とは言え、全くがっかりした訳ではありません。たしかに、帯等の「二度読み必至の!」という煽りに煽られ、購入した人もいるでしょう。

というか、ほとんどがそうに違いありません。いくつかネットのレビューを見たので確かなはずです。

 

 

ですが、帯やあらすじに打ち出されたコピーは基本、読者を煽るものです。煽られて、期待しすぎて、それ以上のどんでん返しに出合ったことの方がむしろ少ないかと思います。

幸い私は、その煽り表現を特に意識せずに読み始めたものですから、心底期待を裏切られた、とはなりませんでした。幸運です。

 


それよりも、久しぶりに引き込まれる作品でした。他ホラー作家ならもっと深掘りするようなグロテスクな表現をあっさりと書き上げて手放し、逆にぞくりとさせました。

 

 

徐々に狂気じみていく”僕”と、”おれ”が対話した瞬間、私は帰宅の途中で、最寄駅に到着したことをとても恨めしく思いました。

 


がっかりした点をもう一つあげるなら、ほかに短編ものが二本入っていたことでしょうか。誰か別の視点で描かれているのかな、と読み進めていましたが、まったく別の話でした。

 

でも、面白かったです。やはりぞくりとしました。冒頭と最後を繋げるのがお好きなのでしょうか。いいと思います。

 

 

いろいろ書きましたが、言葉選びはとても私好みです。機会があれば、別の作品も。